退職金請求権の取り扱い
1 債務整理における退職金請求権
⑴ 自己破産の場合
自己破産手続の場合、退職金請求権、具体的には破産手続開始決定時において仮に自己都合退職した場合に支給される見込みの退職金額の原則として、8分の1の金額は、破産財団に組み込まれる破産者の財産となります。
ただし、定年が迫っている、または定年前でも退職願を提出済みで数か月後に退職することが決まっている場合などの退職間近の場合は、退職金見込額の4分の1の金額が破産財団に組み込まれる破産者の財産となります。
退職金請求権は、その4分の3は差押禁止債権とされており、破産手続においてもその部分は破産財団に組み込まれません。
しかし、退職金請求権は債務者が退職するまで回収できないという、破産債権者にとっての回収困難性等も考慮して、8分の1の金額を破産財団に組み入れるとされています。
⑵ 個人再生の場合
個人再生の場合は、清算価値を算出するための基準として、原則として退職金請求権の8分の1の金額が再生債務者の財産とされます。
⑶ 任意整理の場合
任意整理の場合、債務者の退職金請求権はあまり関係ありませんが。
しかし、定年が1、2年後に迫っている方が任意整理を行う場合、退職金が支給されることを前提とした合意を行うことを求められる場合があります。
2 離婚の財産分与における退職金
退職金は、一般的に給与の後払いと考えられています。
そのため、婚姻後から別居するまで、つまり夫婦間の経済的協力関係が終了するまでの期間の労働分に相当する部分が、財産分与の対象となります。
しかし、財産分与の時点で退職金が支払われていない場合はどのように対応するかについては、いくつか考え方があり、統一はされていないようです。
一つ目の考え方は、別居時、つまり夫婦間の経済的協力関係が終了した時点に自己都合退職した場合の退職金見込み額のうち、婚姻後から別居時までの期間の労働分に相当する部分を財産分与の対象にするというものです。
二つ目は、将来定年退職したと仮定した場合に支給される退職金のうち、婚姻後別居時までの期間の労働分に相当する部分について、中間利息を控除した金額を財産分与の対象とするというものです。
裁判所の実務では、一つ目の考え方で算定する事例が多いようです。
一つ目の考え方の場合、例えば、夫の就職と同時、またはそれより前に結婚し、別居時に夫が自己都合退職したと仮定した場合の退職金額が400万円の場合、その400万円が財産分与の対象となります。
夫婦に他に財産がなく、分与割合を2分の1とした場合は、夫から妻に財産分与として200万円を支払うことになります。