任意整理とは
任意整理と期限の利益喪失
1 任意整理と返済
任意整理とは、消費者金融会社やクレジットカード会社と個別に交渉して、返済条件を変更する合意を行う債務整理の手続です。
任意整理における弁護士の役割は、主に、この返済条件変更に向けての交渉、合意を行うことですが、債務整理としての任意整理は、合意に基づく返済を完遂することで完結します。
返済条件変更の合意では、通常、延滞が2回分に達した場合は期限の利益を喪失するとの条項が入っています。
例えば、60万円を毎月末日までに1万円ずつ分割で支払うという合意をした場合、延滞が2万円に達した場合に、期限の利益を喪失します。
期限の利益を喪失すると、その時点で残っている残額に、返済までの遅延損害金を加算して一括で返済しなければならなくなります。
そこで、任意整理では返済の管理が重要になるのです。
2 期限の利益喪失の回避
期限の利益喪失条項では、上述のとおり、通常、延滞が2回分に達した場合に期限の利益を喪失すると規定されています。
60万円を毎月末日までに1万円ずつ分割で支払うという合意の場合、例えば5月の返済ができず、そのまま6月の返済もできなかった場合は、延滞が2回分である2万円に達しますので、期限の利益を喪失することになります。
逆に言えば、2万円に達しなければ期限の利益は喪失しませんので、上記の例では、6月末日までに1円でも返済しておけば、6月末日が経過した時点で延滞は1万9999円となるため、期限の利益は喪失しません。
そして、7月末日までに1万円返済すれば、7月末日が経過した時点での延滞額はやはり1万9999円となるため、期限の利益は喪失しないことになります。
各回の返済額全額が用意できないと、1円も返済しない方もいらっしゃいますが、期限の利益喪失を防ぐという観点からは、返済可能な金額は返済しておくことが重要になります。
3 期限の利益を喪失した場合
期限の利益を喪失した場合、原則として、あらためて債務整理を行う必要があります。
ただし、業者によっては、合意上は期限の利益を喪失したとしても、短期間の遅れは見逃してくれることがあります。
これを期限の利益の再度付与といいます。
そのため、すぐに諦めることはせず、速やかに任意整理を行った弁護士にご相談ください。
任意整理の対象とならないケースの対応方法
1 任意整理の対象業者
いわゆる任意整理は、債権者である業者と直接交渉して返済条件の変更を取り決める債務整理の手段ですが、対象となる業者は消費者金融会社やクレジットカード会社(信販会社)となります。
なお、銀行や信用金庫のカードローン、フリーローンも対象となりますが、これらの金融機関のカードローン等については消費者金融会社やクレジットカード会社が保証をしていますので、任意整理の交渉相手はそれらの保証会社になります。
ここでは、この債務整理としての任意整理の対象とならない負債について、対応方法をご説明します。
2 滞納税金
税金を滞納している方から、債務整理の相談を受けることがあります。
ご存じのとおり、税金は破産しても個人再生を行っても、免除ないし減額を受けることはできません。
そこで、任意整理でどうにかならないかという趣旨で相談を受けることがあります。
しかし、税金は債務整理としての任意整理の対象にはなりません。
国や地方公共団体は、納税義務者の勤務先や銀行口座を把握できますので、納付しないまま放置すると、給料や預金を差し押さえられることになります。
税金の滞納がある場合は、市役所等の担当部署で分割納付の相談をしてください。
3 事業資金の借り入れ
個人事業を始めるにあたり、銀行カードローンや消費者金融、クレジットカード会社などから借り入れを行った場合には、問題なく任意整理の対象となります(ただし、銀行から事業資金として借り入れを行った場合は、その保証会社は信用保証協会になることが通常ですので、その場合は任意整理の対象とはなりません)。
ただ、個人事業を行う方が事業資金を調達する場合、日本政策金融公庫から借り入れを行う方も多く、そのような方から債務整理の相談を受けることもあります。
日本政策金融公庫は貸付を行う機関ですので、返済条件変更の交渉を行うこと自体は可能です。
しかし、日本政策金融公庫は公的な機関ですので、消費者金融業者やクレジットカード会社のように、電話のみで簡単に交渉して合意に達することはありません。
日本政策金融公庫からの借り入れについて、返済条件を変更してもらうよう交渉を行うためには、事業の状況がわかる帳簿等の会計資料を示し、どの程度の条件であれば無理なく返済できるのか、担当者に対し説明を行う必要があります。
その場合に、交渉を弁護士に依頼するとしても、事業の経営や企業会計に詳しい弁護士を選択する必要があり、弁護士費用も、通常の交渉事件として依頼する際に必要となる金額を準備する必要があります。
4 個人からの借り入れ
例えば友人等の個人からの借り入れも、任意整理の対象とはなりません。
この場合、通常の交渉事件として返済条件の交渉を受けることは可能ですが、貸主である友人等が経済合理的な判断をすることができない場合は、交渉しても合意に達することは困難です。
このような場合は、簡易裁判所の特定調停を利用することを検討することになります。