飲酒運転で交通事故を起こしてしまうと保険金は支払われないのですか?
1 飲酒運転による事故
2021年6月28日、千葉県内で飲酒運転による交通事故で、下校途中の児童5人が死傷した事故がありました。
千葉県内では、上記の事故以降も飲酒運転による事故が相次いでおり、事故後からわずか9日間の間に酒気帯び運転容疑で4人、酒酔い運転容疑で3人が逮捕されました。
2 飲酒運転とは
道路交通法は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」(同65条1項)とし、アルコール濃度にかかわらず酒気帯び運転を禁止しています。
一方で、処罰規定としては、酔いの程度によって「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」に分けて規定しています。
処罰対象となる酒気帯び運転は「血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラム」(道路交通法施行令第44条の3)と定められています。
また、酒酔い運転は、体内のアルコール濃度を問わず「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」(道路交通法第117条の2第1項)での運転と定義されています。
3 飲酒運転と自動車保険
「飲酒運転で事故を起こすと自動車保険が支払われない。」と言われることがありますが、これは半分正解で半分間違いです。
確かに、任意自動車保険の約款には、無免許運転や酒気帯び運転、酒酔い運転、麻薬、大麻、あへん、覚せい剤、シンナー等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転による交通事故により生じた損害につき、免責規定(保険金を支払わないという規定)を設けています。
しかし多くの場合、これはあくまで加害者本人に生じた損害についてのみです。
つまり、酒気帯び運転で交通事故を起こし、被害者と加害者両方の車両が損壊し怪我をした場合、被害者の怪我と車両の損壊については、加害者の加入する任意保険の対人賠償保険と対物賠償保険により保険金が支払われます。
一方で加害者の怪我と車両の損壊については、加害者の加入する任意保険の人身障害者保険や搭乗者傷害保険、車両保険を使うことができず保険金が支払われません。
4 免責事由となる酒気帯び運転の定義
2で、道交法上の処罰対象となる「酒気帯び運転」は「血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラム」と記載しました。
しかし、任意自動車保険における免責規定上の「酒気帯び運転」は、上記数値に限られないとする高裁判決があります(大阪高裁令和元年5月30日判決)。
同事案では、被保険者の呼気から呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出され、酒気帯び運転行為であったことは認められるものの、刑事罰の対象になる呼気1リットルにつき0.15ミリグラムよりは低いアルコール濃度であった場合に、任意自動車保険の免責規定が適用されるのかが争われました。
判決では、酒気帯び運転による免責規定の趣旨を、「酒気帯び運転の結果、数々の悲惨な事故が惹起されたことなどから、酒気帯び運転をしてはならないということは、社会全般の共通認識であり、公序を形成しているといえる。本件免責事項は、こうした点を踏まえた上で設けられたものと推認される。」とし、免責条項の指す「酒気帯び運転」を刑事罰の基準と同程度のアルコール濃度(呼気1リットルあたり0.15ミリグラム)と限定的に解釈するのではなく、「通常の状態で身体に保有する程度を超えてアルコールを保有し、そのことが外部的徴表により認知し得る場合を指すと解するのが相当」としました。
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